人生を満喫してしまったかもしれない


20を過ぎた頃から物忘れが激しくなり、同時に過去のことを思い出すことが多くなった。わたしはいつに生きているんだ。


過去のことを思い出すのは発作的で、わたしの精神を蝕む要因の一つであると医師に言われた。悪い思い出だけ思い出さないように、思い出してしまったら流すように。そのために精神をまろやかで軽やかにしていくのがわたしのもうひとつの仕事となる。普段職場で働いていながら…なんというダブルワーク…。

ときどき〈忘れてはいけないこと〉も思い出す。病気のように。中学生の頃友だちとプリンタワーを作ろうとしたこと。保育園のころ捕まえたイナゴ。昨年助けた雀。これもきっとわたしは忘れてしまう。

思い出したくないことが頭から乖離していかない時は薬を飲んで横になる。食事の風景に薬が常駐するようになってから何年経つだろう。どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが薬なんだろう。来年の今頃、わたしは今日あったことなんてすっかり忘れて惰性で生きているだろうか。

今日は雪の香りがしない。暖房の効いた部屋で、毛布がもたらす幸せの中で眠りにつく。明日も仕事だ。稼ぐぞ。