五月の雪


ここのところは体調がいいせいか寝起きに夢を見たのを覚えていることが多い。昼寝は現実と眠りの中を行ったり来たりしながら自分が曖昧になって部屋に拡散していく。ことにその間は幻想的な景色を見る。夢というよりは幻覚に近くなってしまうかもしれない。


五月になった。昨日は久しぶりに街へ出て、強い風に向かって鯉のぼりが雄大に泳ぐ姿を何度か見かけた(そも田舎なのでそのレベルの街ですお察しください)。想像してみて欲しいけれども、もし鯉のぼりにしんしんと雪が降り積もっていたら?

そんな夢を見た。

ベッドから起き上がるといつもより静かな感じがして、生まれて育ってきた感覚から「ああ、雪だな」となんとなく分かる。窓の外を覗くと木の上にこんもりと雪が積もっていて、「大雪だからこまめに雪かきしないとね」と親の声が聞こえた。でも待って、昨日五月を迎えたばかりでは?目の前で記録的な大雪が緑の上に積もって、積もって、隣の家など屋根の色を忘れる程になっている。桜の新芽が冷えてしまうな、と呑気に考えながら遅めのご飯を食べようとする相変わらず自堕落な自分。

白と緑に染まった世界で、わたしは篭り続けた。雪が降ると犬は喜び庭駆け回ると言う。庭の老大木の軋みや新緑の悲鳴が雪に吸収されて、とても静かだった。犬には聞こえるだろうか。最も室内犬がまず始めに聞くのは飼い主の雪かきの愚痴だろうな。家に新しく来た犬を見ながらそんなことを思い遣った気がするようなしないような。

起きたら雨が降っていた。隣の家の屋根は黒々と光って、緑は水を喜んでいた。たぶん。夢から醒めたわたしはセーブポイントから起き上がって、レベリングを始める。何故ならサービス業なので明後日から連勤なのだ。ちくしょうめ。がんばる。