2018年の冬とQOLの話


本は買っただけで頭が良くなった気がする。しかも買った後は好きな本ほど傷むのが怖くてページを繰ることができない。ぴかぴかの本が背表紙だけ日焼けしていく。うちの親は何を考えて西日の当たるところに本棚を作ったのか。本が可哀そうなので読んでみるとなんとも、こう、ノスタルジック。昔、この文字はどんな顔で日の目を見たのか。このページはどんな眩しさでわたしの顔を見たのか。いけない、文字が脳を上滑りしてしまう。


久しぶりに丸善に行ったらとても静かで、人はたくさんいたのにお通夜のようだった。皆んなが着ている冬のコートばかりが衣擦れして、大学の図書館もこんな感じだったかしらと思い出す。眼鏡の店員さん、うにゃうにゃ喃語を喋る幼子、その子を抱える父親、コーヒーをくゆらす文化人。きっといたるところで皆が皆檸檬を爆発させたがっている。そんな変な妄想をしながら目当ての本を探し、無かったようなのでこれは通販かな、と肩を落とした。図書カードが溜まっていく。

好きな作者の本を一冊だけ、しかも亡くなってしまったのでもう文庫本にはならないであろうハードカバーを買って丸善を出る。紺色のビニール袋が嬉しい。空気が雪の香りを運んで、それはそれはもう冬だった。コートのポッケに手を突っ込んで震えながら信号待ち。きっとこの信号が青になったら、向かいのパン屋の香ばしい香りが雪と混ざる。そんなことを考えると心がふくふくしてきて、ああもう、最高な休日だな。